介護現場におけるスピーチロックとは?実際の事例や言い換えについて解説

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介護現場における<スピーチロック>とは、不適切なスピーチ(言葉)による拘束(ロック)を意味し ます。スピーチロックは物理的な物を介さないため発見されにくい一面があります。


認知症の高齢者や疾患が原因で声をあげられず身体的に強い抑制を受け悪影響を与える危険があり、近年、虐待として大きな問題となっており対策が必要です。


これに対し、普段から研修を行い、専門知識の共有し、職員や介護者の言葉遣い、声かけ、コミュニケーション、ケアへの意識改革、職場での改善実施が必要です。


この記事では、スピーチロックへの正しい情報と専門知識が得られ、介護の職や介助者としての接遇や言葉使いへの意識を高めることを目的とし、実際の経験をもとに執筆させて頂きました。

スピーチロックとは

介護現場の3つのロック

ここでは、介護現場での<3つのロック>について解説します。


1.フィジカルロック
抑制衣やベルトなどで利用者を物理的に身体拘束し、身体の動きを抑制する行為

2.ドラッグロック
ドラッグ(向精神薬など)の過剰、不適切投与を行い、利用者の行動をコントロールする行為


3.スピーチロック
言葉で利用者の行動を抑制する行為
スピーチロックは他の身体拘束のような物理的な道具を必要としません。生活の中で無意識に起こりやすく、誰でも行ってしまうリスクがあります。


通常の声かけと抑制としてのスピーチロックかの明確な基準はありません。


スピーチロックが起こりやすい場面

スピーチロックはどんな場面で起こりやすいのでしょうか?
ここでは、介護施設を例に紹介します。


1.人手不足で直ぐに対応できない
介護現場は常に人手不足です。多くの利用者を少ない介護職員で対応するため、余裕がありません。


直接的な介護以外の業務もあるため、御要望に直ぐ対応できないことが多くスピーチロックへつながり易いのです。


2.認知症の方への対応が難しい
介護施設では認知症の利用者が多く個別に対応する場面も多いため、介護職員への負担が大きくなります。


介護職員からの言葉の理解が難しい方や暴力行為のある方もおられますので、安全に介護を行う為にスピーチロックをしてしまうことがあります。


3.対応が重なり直ぐ対応できない
多くの利用者を少ない介護職員で対応しています。御依頼が重なってしまう状況では直ぐに対応できず、ついスピーチロックの声かけをしてしまいます。


4.事故防止と緊急の安全確保が必要な場面
施設では、筋力低下により転倒リスクの高い利用者が多くおられます。
認知症の症状により、介助の必要性や転倒リスクへの理解が難しく一人で歩き転倒。


それに伴う骨折や外傷へつながるケースもあります。座っていた方が急に立ち上がったり、ベッドから転落したりなど。


起床後直ぐのふらつきや、浴室での滑りやすい環境での介助、夜間など暗く危ない場での介助ではスピーチロックをしがちです。


5.食事場面でのリスク(誤嚥・誤薬)
認知症により誤嚥への理解が難しく、しっかり咀嚼せずに飲み込んだり、急にかき込んだりする利用者がおられます。


声かけの意味が理解できず誤嚥のリスクが高まります。
安全な嚥下のための観察と注意は常に必要です。


ついスピーチロックしがちですが、根気よく声かけを継続することが大切です。又、内服薬の拒否や他者の薬の服用(誤薬)など、危険を防ぐ対応が必要です。


スピーチロックが与える影響

スピーチロックが利用者へ与える5つの影響についてまとめました。

1.行動意欲の低下
身体的、精神的拘束をうけることにより、利用者の自発的な言動が制限され回復の機会が失われます。


日常の中で自分で考える、意思を伝える、身体を動かしたいという気持ちも抑制され、その結果行動意欲や機能低下を招く恐れがあります。


2.ADLの低下
心身への強い拘束を受けることにより、様々な意欲が衰え全身的なADLの低下を招きます。
歩く、食べる、話す、排泄するといった日常生活動作や、笑う、怒る、泣く、楽しむといった喜怒哀楽。


美しいと感じる感動の心、感情も感じられなくなっていきます。
その結果、要介護度が悪化する可能性もあるでしょう。


3.事故へ繋がる
全身的なADLの低下により、転倒や転落などの事故が起こるリスクが高まります。


少ない介護職員ではリスク回避できない場面も増え、重大事故へ繋がる可能性が考えられます。

転倒による頭部外傷、骨折など、緊急に医療へ繋げなければいけない状況にもなりまねません。

4.認知症の症状悪化
認知症の症状として記憶力低下がありますが、感情は強く残ります。


強い拘束により、「怒られた」「無視された」「いじめられている」「バカにされた」と感じ、ストレスで症状が悪化する可能性があります。


諦め、被害妄想、せん妄、怒り、暴力行為へ繋がることも考えられますので、利用者への言葉遣いや関わり方へは十分な配慮が必要です。

5.人間的尊厳の喪失
利用者の意思に反して心身への強い拘束を強要し日常生活を制限することは、人間的尊厳を奪うことと言えるでしょう。


心身に疾患がありに生活に支障をきたす場合でも、利用者が自らの意思で選択し生きていくことは人としての重要な権利です。


その権利を奪うことは、誰にも出来ないのです。


スピーチロックの事例集

抑止の言葉

「○○しちゃダメ!」「やめて!」「立たないで!」「そんなことしないで!」「待って!」

日常生活動作において、危険を回避するための様々な抑止の言葉があります。無意識に使われがちですが、利用者へ強いストレスを与えます。

<介護施設での例>
食後、共用リビングで車椅子に座り過ごしていたAさん。最近筋力が低下し、ふらつくことが多くなりました。トイレに行きたくなり、既に車椅子のブレーキを自ら外し立ち上がろうとしています。
介護職員は食後の片付けに追われています。


その様子を発見した職員は「あっ、Aさん危ない!立たないで!座って!」と大声で叫びます。


Aさんをはじめ、他の利用者はびっくり。食事の手を止めてしまう利用者もおられたほど。

介護職員は、Aさんのところへ走って駆けつけ車椅子へ座らせ、ブレーキをかけ「お願い。ちょっと待てって!」と言ってすぐその場を離れてしまいます。


叱責の言葉

「なんでそんなことするの!」「なんで出来ないの!」「なにやってんの!」

障害や疾病、加齢による身体機能低下により、以前できたことができなくなっていくことがあります。

動作に時間がかかったり、高齢者の認知症症状により介助量が増え、介護職員への負担は増えていきます。


<介護施設の入浴時での例>

本日入浴予定のBさん。

脳梗塞の後遺症で右上下肢に軽い麻痺があります。脱衣室で衣類を脱ぎ始めますが、麻痺側の衣類をスムーズに脱ぐことが出来ません。

それを見た介護職員が、「なにやってんの?なんで出来ないの?」と大声で言います。Bさんは焦りと動揺で涙があふれてしまいます。

威圧的な口調の介護職員に対しては、怖くて何も言えませんでした。この日以降、Bさんは部屋に閉じこもりがちです。

命令口調

「止めて!」「じっとして!」「早く食べて!」「さっさと着替えて!」「だめ、座りなさい!」

疾患や加齢により、以前より日常生活動作に時間がかかるようになります。介護職員は忙しさのあまり、利用者へ強い命令口調で動作を促してしまいます。

<介護施設での食事時間の例>

共用リビングで昼食中のCさん。

入れ歯が合わず、食事に時間がかかります。やや硬めの根菜料理だったので、いつもより時間をかけて噛んでいますが、飲み込むまでに時間がかかってしまいます。他の利用者は既に食事を終えました。

食事介助担当の介護職員はCさんに「ちょっと、いつまで食べてんの?早く食べて!」と強い口調で言います。Cさんは動揺し激しく咽せてしまい、途中で食事を終えました。

上から目線の言葉

「よくできました!」「やってあげるね」「さっきも言ったでしょ!」

お互い接する機会が増えると、必要以上に近い関係性となり口調も変化することがあります。

介護職員は利用者を介助する立場であることから、「~してあげる」という上から目線の感情を無意識に持つ場合があります。

利用者と介護職員は同じ人間であり、上下関係はありません。

<デイサービスでの排泄介助時の例>

デイサービスでトイレへ行かれたDさん。

自分でリハビリパンツに新しいパットを装着し直しました。右上肢に軽い麻痺がありますが、きき手である右手を使ってきれいに装着し直すことができました。

見守りで横にいた介護職員は「よくできました!上手い、上手い!偉いねぇ。」と拍手。

Dさんは複雑な気持ちになってしまいました。それ以来、デイサービスを安心して利用することができず「もう行きたくない。」と思い始めています。

スピーチロックの言い換え例

スピーチロックは利用者に大きなストレスを与えます。実際相手へ伝える際に言い方を変えてみましょう。やわらかい表現となり、利用者も受け入れやすくなります。

非定型ではなく、依頼型で伝えるのがポイントです。

接遇に気をつけ、相手の目を見てゆっくりやさしく笑顔で対応しましょう。様々な種類の具体例を一覧にまとめました。

なぜスピーチロックをしてしまうのか、どうしたらスピーチロックを防止し利用者へ不安を与えず、適切にコミュニケーションができるのかが分かり、介護現場で役立ちます。ぜひ参考になさって下さい。

スピーチロック

言い換え例

ちょっと待って!

片付けますので、後5分ほどお待ち頂けますか?
(片付け後)お待たせいたしました。

危ないので立たないで!

どうされましたか?

安全のために座って待ちましょう。

まだ食べてるの? 早く食べて!

いかがですか?ご馳走様ですか?

座って!

どうぞ、おかけ下さい。

止めて下さい!

どうされましたか?

さっさと着替えて!

いかがですか?お手伝いさせて頂きましょうか?

なんでそんなことするの?

どうされましたか?

なんでできないの?

どうされましたか?
お手伝いさせて頂きましょうか?

やってあげるね

お手伝いさせて頂きましょうか?

汚いなぁ(衣類が汚れている)

着替えましょうか。一緒にさせて頂きます。

漏らしたの?くさい・・・

下着を替えましょう。一緒にさせて頂きます。

※クッション言葉を使い分けると、よりやわらかい表現となり相手が受け入れやすく、伝わりやすくなるメリットがあります。以下のとおり、状況により使い分けて活用してみましょう。

状況

クッション言葉

質問するとき

「失礼ですが」「お伺いしたいのですが」
「よろしければ」「お差し支えなければ」

依頼するとき

「恐れ入りますが」「恐縮ですが」
「御手数をおかけいたしますが」

依頼を断るとき

「あいにくですが」「申し訳ございませんが」
「せっかくですが」「残念ですが」

苦情を言うとき

「○○様、大変申し上げにくいのですが」
「○○様、申し訳ありませんが」

スピーチロックが起こりやすいケース

業務に追われて余裕がなくなる

介護現場は常に人手不足で、職員は業務におわれて余裕がありません。
利用者の皆様に安全で気持ちよく過ごして頂くために、ミス無く業務をこなさまねればならず、肉体的、精神的に大きな負担がかかります。

<デイサービスでの入浴介助時の例>
デイサービスでの入浴を毎回楽しみにしているEさん。
介護職員に誘導されて浴室へ。今日はいつもより大勢の利用者が来られ、入浴開始時間が遅れ気味でした。洗体が始まりましたが、洗髪介助を手短にされ、足先も簡単に流すだけと職員の対応に戸惑いの表情です。

「今日は忙しそうだから、言い出しにくい・・・。」と職員へ気持ちを伝えることができず、そのまま入浴を終えました。
介護職員は汗を拭きながら「今日は大勢だから時間がないのよね・・・。忙しい・・もう終わり!」とのことでした。
Eさんは次回の入浴がとても心配です。

無意識に強い言葉を使ってしまう

毎日の食事は、利用者とって楽しみの一つです。
ここでは食事介助時のスピーチロックをご紹介します。

<介護施設での食事介助時の例>

毎日の食事をとても心待ちにしているFさん。
最近入れ歯が合わず、食事に時間がかかり食べこぼしも増えてきました。なるべく御自身で食べて頂くよう、介護職員は共用リビングで他の大勢の利用者を介助しながらFさんを見守ります。


Fさんは半分ほど食べ進めますが、お膳には味噌汁がこぼれ、膝や床にに食べこぼしが散乱しています。
入れ歯が合わないため、食事中に入れ歯を御自身で外すなど、手や口まわりも食材で汚れ始めました。


それを見た介護職員は「Fさん!汚いなぁ。なにやってんの。こぼさないで!」と大声で叫びます。
Fさんは食事を止めてしまいました。

スピーチロックを避けるためには?

スピーチロックとは、言葉によって身体的、精神的に行動を制限することです。

薬投与やベルトをつけるなどの物理的な抑制ではないため、発見されにくく明確な線引きはありません。

スピーチロックにより、利用者の行動意欲やADLの低下、認知症症状の悪化、重大事故発生の可能性、介護職員による虐待行為が起き大きな問題となっています。

利用者を尊重する言葉を選ぶ

介護現場では、利用者と介護者という立場ですが上下関係はありません。人手不足で介護職員に時間と心の余裕が無い状態ですが、どんな場合でもスピーチロックは厳禁です。
利用者を一人の人間として尊重する気持ちで支援することが大切なのです。

この気持ちが欠けると、無意識にスピーチロックとなります。
利用者の立場に立ち、相手を尊重する言葉を選び、やさしく笑顔で声をかけましょう。

言い換え言葉を職員間で周知する

利用者へ安心で安全な生活とサービスを提供するには、日々の言い換え言葉を職員間で徹底して周知することが必要です。内容を表に作成し掲示することも良い方法でしょう。利用者を尊重する視点を持ち、原則全員で実践しなければ効果はありません。

各施設の方針に基づき職員全体が同じ方向を向いて働くことが重要です。

スピーチロックについて職員に向け研修会を実施し、定期的な実施報告を行うことが質の高い介護サービスへ向上させるポイントです。

まとめ

少子高齢化が進み、介護現場では少ない介護職員が利用者の安全を守りながら業務に追われています。人手不足により介護職員からの拘束や虐待が行われ、介護、福祉事業を行う業界や日本の重大な社会問題となっています。


人間の尊厳を守り、質の高いサービスを提供し、利用者に安心安全でおだやかな生活を送って頂くために、身体的、精神的拘束を徹底して排除しなければなりません。


スピーチロックへの深い理解と反省、接遇やマナーの徹底した指導と検証が必要です。


そして、利用者と家族、介護現場を担っている職員への情報提供とサポート、悩みを相談でき、精神を安定させるためのメンタルケアの提供も忘れてはなりません。


この記事の著者

派遣のキャリアマルシェ_編集部

介護業界への転職・派遣に関する記事を制作・配信している編集部です。20年以上の介護施設運営歴のある弊社より、介護事業所で働く皆さんに役立つ情報を発信しています。

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